LIVE RECORDING

NW党
公開収録トーク

RAW WINE TOKYO 2026 Tokyo Ryutsu Center TOMOFUMI FUJIMARU
Talk session with Tomofumi Fujimaru — NW Party Public Recording
YouTube では、公開収録当日にいただいたQ&Aの様子のみお送りしております。
PART 01 本編トーク
Q.01 SO2の話、ではなく "ブドウの話"

ナチュラルワイン = "SO2を入れない"。
でも本当にそれだけ?

そうなんです。日本ではどうしても酸化防止剤の話から入りがちですが、実はワインを造るうえで、ナチュラルかどうか以前に、酸化防止剤はごく一部の話でしかなくて、本当はブドウの話から始めないとどうにもならないんです。

このRAW WINEには、ちゃんとブドウの定義があって、オーガニック、もしくは認証を取っているブドウを使ったワインしか出展できません。 実は今日昼間にイザベルに取材したんですが、彼女も同じことを言っていて、「日本で有機野菜・オーガニック野菜を手に入れるのは本当に大変だ」と。日本は料理も素晴らしくていい国だけれど、こと環境問題への感度はものすごく低い。

なぜかというと、日本は面積あたりの農薬使用量で世界一、二を争うほど農薬をたくさん使う国なんです。 なぜそんなに農薬が必要だったのか――この20年ほど物価も賃金もほぼ変わらなかった中、それでもなんとかやってこられたのは、狭い国で効率よく食材を作ってきたから。 そのためにはどうしても農薬や添加物が必要で、安く上げて自分たちが食っていくために必要だった、というのが大きい。善悪というより、そうせざるを得なかった、という話なんです。

ヨーロッパに行くと、本当にオーガニック専門のスーパーがめちゃくちゃあるんですよ。日本はとにかく探すのが大変で、東京にはまだあるけれど、大阪だと見当たらない。

Q.02 ワインの定義から考える

そもそも "ワイン" とは何か?
なぜ "ナチュラルワイン" という言葉が生まれたのか?

まず前提として――ワインとは、単純にブドウ、もしくはブドウ果汁を使って造られた発酵飲料。それがワインで、定義はそれだけなんです。

そのうえで、なぜ「ナチュラルワイン」という言葉が生まれたのか。 僕たちがワインの勉強を始めた30年前くらいは、今よりもワインの世界はもっと似たようなワインばかりでした。農薬を使って画一的に綺麗なブドウを作って、同じ醸造設備で同じ醸造技術でワインを造るので、結果として同じようなワインしか生まれない。 金太郎飴みたいなワインが大量にできてしまって、そこからワインの個性や面白さは取れなかったんです。

これに対して、一部の人たちは「こんな金太郎飴ワインを作り続けても仕方がない」と、別の方向に走り出した。

栽培の段階でも、化学肥料をずっと与え続けていると、だんだん肥料が効かなくなってくる。ブドウが甘くなる理由は、危機感を与えて「水が足りない」「栄養が足りない」「ここはやばい」と感じさせることで、子孫を残すために果実を甘くしたり色を付けたりするからなんです。ずっと安泰な状態だと、ブドウは熟さない。

だからどんどん個性がなくなって、それをマスキングするために糖を足したり酸を足したり、いろいろなことをし始めると、結局バランス全体が変わってしまう。そうじゃない方向に進まないとワインの世界は良くならない――というところから生まれてきたのが、今のナチュラルワインの先輩たちの世代なのかなと思います。

Q.03 RAW WINEの基準と添加物の話

実は、ワインは日本で
いちばん添加物が多く認められているお酒。

添加物の話につながりますが、酸化防止剤――例えばこの RAW WINE に出展できる基準は 50ppm。 ちょっと前までは 70ppm という話もあったんですが、「ナチュラル」と呼ぶなら 50 にしようよ、と世界の基準も変わってきているので、それに合わせて RAW WINE も 50 にしています。

ただ、酸化防止剤、特に SO2 の話だけしているとまた話がおかしくなる。 実はワインの世界で、いわゆる添加物が一番多く認められているお酒の種類は、日本ではワインなんです。ワインだけが圧倒的に多い。もちろん全部を使っているわけではないですが。

なぜかというと、必要だったから。ブドウ栽培もワイン醸造もまだまだ技術が未熟な時代に、海外のワインに追いつくため、値段を合わせるためには、添加物に頼らざるを得なかった。 一番シンプルなのは 補糖です。糖分が足りないブドウに補糖すれば、アルコール度数が上がってマッチョな感じになる。 暑いエリアで酸が低くてのっぺりしたワインになるなら、補酸してキリッとさせる。

でも補糖も補酸もし出すと、元の原形がなくなってきて変なバランスになる。 それを醸造技術でどう調整するかとなると、発酵スターターを足したりする。すると今度は澱がいっぱい出るので、フィルターをかけたり清澄したり―― ブドウの段階でバランスがおかしくなると、醸造でもずっと何かをし続けないといけなくなる

そうすると、元のブドウからすごく遠いものにワインがなってしまう。 そこから生まれてきたのがナチュラルワインなんです。必要とされて生まれてきた

Q.04 ナチュラルワインの "定義" の難しさ

ナチュラルワインも "星の数ほど"。
一言で言うのはすごく難しい。

ナチュラルワインって、皆さんの中で「これはナチュラル、あれはナチュラルじゃない」といろんな議論があると思うんですが―― 基本的にワインって星の数ほどあるじゃないですか。ナチュラルワインも星の数ほどあって、 たとえば日本人でも北海道の人と沖縄の人ってキャラが違いますよね。良い悪いではない。

ナチュラルワインも同じスタンスで、飛び抜けた人もいれば緩い人もいて、本当にいろんな種類があるので、一言で言うのはすごく難しい。

Q.05 二日酔いの話

"ナチュラルワインは二日酔いしない" は
本当か?

よく言われるのが、二日酔いの話。「ナチュラルワインは翌日が楽だ、頭が痛くならない」と言われると思うんですが、 実際は当たらずも遠からずというか、あまり関係がないです。

そもそもワイン屋さんやお酒を造ってる人たちに二日酔いの質問をするのが少し間違っていて―― それはお医者さんに聞いた方がいい。医療の話なので、僕たちの専門ではない。

二日酔いの原因は未だにちゃんと解明されていなくて、もし一発で治せる薬を作れたら、それこそノーベル賞ものだと思います。 ただ、そんなものを作ってしまうと、飲み過ぎで肝臓を弱らせて病気になる人も増えるはず。 二日酔いは体のサインなので、「それ以上飲まなくていい」というメッセージだと思います。

もう少しお伝えすると、二日酔いにも実はいろんな種類があって、脳に来るタイプと、胃腸に来るタイプがあります。胃腸に来るタイプは単純に飲み過ぎ。

僕の場合、苦しいのは頭痛。飲み過ぎると肝臓がフル回転して脱水状態になり、脳みそが少しだけ縮む。二日酔いの時って、じっとしていれば痛くないけれど動いた瞬間に痛いじゃないですか。脳がいつもより脱水状態になっていて、動くと響くんです。

あとはヒスタミンというアレルギー物質があって、肝臓はアルコールを先に分解するので、ヒスタミンは後回しになる。 ヒスタミンも分解酵素を人間は持っているんですが、うまく働く人と働きにくい人がいて、体調や食べ合わせによっても変わってくる。結局シチュエーション次第なんです。

単純に酸化物質が多いから二日酔いになる、というよりも、「SO2 無添加のワインじゃないと頭が痛くなる」という人は、二日酔いではなくて亜硫酸過敏症――要はアレルギーの可能性が高いので、また少し別の話です。

ただ、こうした添加物にアレルギーを持っている方は、花粉症と一緒で蓄積していくんです。ある時、突然ダメになる。それまでは平気だったのが、許容量を超えて溢れ出した瞬間に発症する。 ほどほどに、自分の体調に合わせて飲み食いすることが大事だと思います。

Q.06 無添加 = 絶対的に良いワイン?

無添加なら絶対にいいワイン、
と言い切れるのか?

無添加が「いい」かどうかというより、無添加で、SO2 を入れずに美味しく造れたら「すごいね」という話です。

さっきも言ったように、添加物はみんな入れたくて入れているわけではなくて、安定して大量のワインを綺麗に造るために醸造学があって、そこには「SO2 を入れましょう」と書いてある。入れたくはないけれど、入れないと安全に造れないという理由で必要なんです。

ただ、「もう入れたくないんだ」という生産者もいて、僕の知っている生産者にも一人 SO2 アレルギーの方がいて、その方は自分のワインに使わないのはもちろん、人のワインもゼロのものしか飲めない。これはまた別の問題です。「入れたくない」という人もいて、それがいい悪いではなくスタンスの問題

お客様の中にも、添加物のないものを自分の体に入れたいという選択をする方がいるので、そういう方はもちろん無添加のワインを飲むべきだと思います。 そのためには、造り手側がある程度情報を開示して、「ここはこれくらい少ないから安心して飲めますよ」と伝える必要がある。

そういうものを少なくしたうえで美味しく造れたら「すごいね」と、生産者を褒めてあげてくれたらいいんじゃないかと思います。

PART 02 会場からの質問
Q.07 造り手側の動機

そもそも、なぜ "ナチュラルワイン" を
目指すのか?

僕の場合、今大阪のワイナリーがブースを出していて、東京は出していないんですよ。 理由は、大阪の方はオーガニックだから。昔から減農薬で、最近は有機 JAS のレベルまで行けたので。 東京は海外品種のブドウが中心で、山形の農家さんから減農薬では仕入れていますが、完全に認証を受けているわけではないので、こちらは出していません。

じゃあなぜナチュラルワインを目指したのか――僕の場合、昔レストランのサービスマンだった時代にこういうワインに出会いました。 本当に、僕がワインを飲み始めた 30 年前のワインより、今のワインの方が楽しいんです。

当時は AOC に縛られた、フランス・イタリアといったオールドワールドがメインで、テイスティングしても似たようなワインばかりで差がわからなかった。それを真似して、僕らも「こういうワインがおいしい、これが全てだ」と教えられた。

でも現地に行くと、結構みんないろんなワインを造っていて、それがまだ日本には入ってきていなかった。そういうワインに出会った時に、「ワインってこんなに自由でいいんだ、オールドワールドのためのものじゃないんだ」と知って、自分の体にどういうものを入れたいのか、どんなもので自分たちの個性を表現していくのか、と考えた時に、自然と――もともとナチュラルワインが好きだったというのもありますが――それが自分の生き方にも合っていた。

もちろん大変なことの方が多くて、なんせ儲からない。 うちはレストランや酒屋部門があるのでなんとか生きていけますが、ワイナリー部門だけだと7、8年前に一度死んでます。 オーガニックに転換した時に、3 年連続で収穫量が 7 割減ったんですよ。同じ経費がかかっていて 7 割減が続くと死活問題で、もう全部やめようかと思った。

でも 4 年目でやっと、ナチュラル・オーガニックな造りにブドウが反応してくれて、収量が戻ってきた。今もピーク時の 3 割減のままですが、出来上がるブドウのレベルが違う

今それを造り続けている理由は、その方が美味しいから。 「美味しいと思っているから、ナチュラルワインを造っている」というよりも、 美味しいワインを造るための方法が、僕らにとってはナチュラルワインの方法ととても似ていた、という感覚です。

Q.08 日本ワインのこれから

日本ワインとナチュラルワインの
"次のステップ" とは?

20 年前、30 年前と比べると、ナチュラルワインというムーブメントが起きたおかげで、本当に楽しい業界になったと思っています。 若い方には多分わからない。「何を言ってるんだ」となると思うんですが、同世代の方は、こんなにみんなが――例えば SNS で――ワインを真剣に語る人がこんなにいるんだ、ということに、賛否はあると思いますが、僕はもう本当に嬉しくて。

「たかが嗜好品」と呼ばれるものに、今日は大阪や地方からも自腹で来ている人がたくさんいる。ナチュラルワインが生まれていなければ、このイベントもなかった。あのままだったら、楽しくない業界になっていたんじゃないかと思います。

ワインの世界では、いつもこういうムーブメントが起きるんです。たとえばスーパートスカーナや、20 年前のバローロボーイズ。 シャブリも、戦後すぐはコンクリートタンクですごく鈍くさいワインが多かったところから、復興してステンレスタンクが使えるようになり、寒いエリアのブドウとステンレスタンクのバランスが取れて、シャープなシャブリが「今のシャブリのクラシック」と呼ばれるようになった――そんな最近の話なんです。

いつも論争は起きて、「いいか悪いか」をやりながら、最終的に残るのはいつも折衷案なんですよね。両方を混ぜていいところを取った人たちが残る。

今、ナチュラルワインはまさにそこに来ていると思っていて―― 僕らが最初にナチュラルワインをやり始めた 25 年前は、本当にオールドワールドからの脱却、金太郎飴ワインからの脱却を、なんとかいい状態にしたい、という生産者がたくさんいた。 そこから次第に、その歴史を知らない人たちがワインを造り出した時に、「0 が全て」「何もやらないのがいい」というライフスタイル寄りの話が出てきた。そうするとオーバーになって、嫌悪感を感じる人が出てきて、揺り戻しが来て、今ナチュラルワインの世界と、そうじゃない世界が分断されているような印象を受ける。 でも僕からすると、「こんなに話題になっていいなあ」とも思う。

結局残るのは真ん中で、いいところを取って残っていくと思うので、ナチュラルワインの世界は、「ナチュラルワイン」という言葉がなくなった時、わざわざ使わなくなった時こそが、一つの着地点になるのかなと思っています。

日本の場合は、まだこれからです。本当に、どの産地でどの品種をどう育てるか、まだ全然試験もできていないところばかりなので、可能性しかないエリアだと思っています。

実際、僕たちが大阪で 15 年ぐらいブドウを作り続けてきて、本当にしんどい時もあったんですが、今はとても安定して作れるようになりました。 たまにミスして(ブドウが)全滅したりもしますが、それでも原因がちゃんと分かるし、「全滅の原因はここにあったな」と次の年に活かせるようになった。

ワインが料理と少し違うのは、1 年に 1 回しか仕込めないこと。料理なら 1 日 10 回試作できるかもしれませんが、ワインは結果が出るまでの時間の流れがとても緩やかなんです。 生産者は 1 年の中で細かい実験を重ねながら、1 年後、2 年後、3 年後、4 年後――そして結果が出るのが 10 年後、ということを目指してやっている。 日本のワインでこういう生産者が増え出したのはこの 10 年なので、本当にやっと動き出したところです。

もちろん紆余曲折はあって、大事なのは新陳代謝ですね。ワイナリーができてはなくなって、という時代にこれから入ってくると思いますが、それは決して悪いことではなくて、新陳代謝が起きない業界は廃れていくので。

ナチュラルワインはこれからある程度、折衷案が生き残っていくと思いますし、日本に関してはまだまだ余地しかないので、その中で日本でナチュラルをやるかどうかも一つの選択肢、やらないのも一つの選択肢だと思います。 今はまだ研究段階というか、全員で日本中を挙げて研究しているような段階で、情報交換も含めて、いろんな団体やグループ、仲間が集まって、いろいろなことを話し合っている途中。それができるだけでも、日本はすごくいい国だなと思いますし、いい飲み手もたくさんいてくれるので、個人的にはすごく明るいなと思っています